【和訳】日本舞踊を学んだことへの考察(Q&A)
◎インタビュー
若柳弥天 → 杭 天然
杭 天然(ハン ティエンラン)
コロンビア大学の日本中世宗教の博士課程後期の学生。博士論文のテーマは日本古代から中世にかけて「鬼」のイメージの変遷とその背後にある宗教儀礼と世界観の発展です。
Q1: What made you interested in learning Nihon buyō? 日本舞踊を習おうと思ったきっかけを教えてください。
A1: 最初は日本舞踊についてあまり知りませんでした。日本舞踊を芸者の踊り、つまり女性の優雅さを強調する美しい踊りと結びつけて考えていて、自分には向かないものだと思っていました。しかし、それは大きな誤解でした。2023年の伝統芸能トレーニング・プログラム(T.T.T.)の発表会を鑑賞し日本舞踊から何を学ぶことができるのかを知ることができました。確かに、理想化された女性の美しさを引き立てる踊りもありましたが、それだけではありませんでした。『三社祭』では速いテンポでエネルギーが爆発するようなダイナミックな踊りもありました。そして、扇子の技術の壮観な表現もあり、扇子が指の間で回転する様子は、まるで自分自身で飛んでいるかのように見えました。日本舞踊は他の多くの伝統的な日本の舞台芸術と同様に、道具や舞台セットの点で比較的シンプルですが、ライブでのステージからは圧倒的な表現力の魅力を放ち、すぐに心を奪われ、踊り手の動きだけで作り出される別の時空間に引き込まれました。そうして、日本舞踊を学びたいと思うようになりました。あの素晴らしい扇子の技術を自分でも習得したいと思ったのです。そして、もっと重要なことに、観客としてだけでなく、日本舞踊の踊り手として、再びあの舞台の力を感じたいと思ったのです。
*T.T.T. (Traditional Theater Training)
伝統芸能トレーニング・プログラム
Q2: Have you learned any other forms of dances up to this point? 今までに舞踊やダンスを習ったことはありますか?
A2: 子供の頃、5歳から7歳までの2年間、バレエと中国民俗舞踊の両方を含むダンスクラスを受講していました。母は私により良い姿勢を学ばせたいと考えて、そのクラスに通わせてくれました。しかし、小学校に入学してからはダンスを続けませんでした。
Q3: What are the differences can you tell between the dances you know and Nihon buyō? What about similarities? 2の質問である場合、または知っている踊りと日本舞踊の違いを教えてください。また、共通点はありますか?
A3: 私はダンスの専門家ではないので、私の限られた知識(経験)から話すことしかできません。日本舞踊を学んで感じた一番の違いは、体の動きが非常に「制約されている」ということです。制約されているというのは、日本舞踊では体を伸ばす代わりに、体の一定の緊張を保つことを強調することが多いという意味です。これまでに学んだほとんどのダンスは、準備段階で多くのストレッチを伴い、柔軟性を重視します。つまり、脚をどれだけ高く蹴り上げられるか、背中をどれだけ反らせるかが重要なのです。しかし、これらの要素は日本舞踊には存在しません。その代わりに、移動するときには常に中腰の姿勢を保ち、腕を上げるときでも肘を体に近づけるようにと常に注意されます。
しかし、日本舞踊と他のダンス形式には共通点もあります。私にとって一番の共通点は、どのダンスも非常に体力を要するということです。日本舞踊を自分で試してみる前は、一般的に動きが遅く見えるので、それほど疲れないだろうと思っていました。実際には、1時間のレッスンの後にはいつも汗だくになっています。良いニュースは、練習のおかげで筋肉も早くついてきていることです。
Q4: Tell us what do you enjoy learning Nihon buyō and what do you find challenging? 日本舞踊のお稽古で楽しい部分、難しい部分を教えてください。
A4: 扇子での表現を習得するのはいつもとても楽しいです。しかし、日本舞踊を学ぶ中で最も楽しい部分は、踊りの動きが意図する場面を想像することです。踊りには常に物語があり、その物語を知り、さまざまなキャラクターになり、踊りを通してそれを体験することは、レッスンでいつも楽しみにしていることです。
一方、難しい部分は間違いなく「腰を入れる」中腰の姿勢です。この姿勢はより安定したスタンスを作るためのもので、踊りの全体を通してこの姿勢を保つ必要があります。人生で一度もこの姿勢を試したことがなかったため、これが非常に疲れることがわかりました。しかし、練習を通じて、スタミナが着実に増し、足も強くなってきたことに気付きました。いつか中腰の姿勢を保つことが挑戦ではなくなる日が来ることを願っています。
Q5: Have you noticed any changes after practicing Nihon buyō? Either in your life or in the way you think? 習い続けてみて、始める前と何か変わったことはありますか?(生活又は精神的に)
A5: 最も目に見える変化は、脚の筋肉がどれだけ増えたかです!日本舞踊を学ぶ前は、運動にそれほど熱心ではありませんでした(ジムに行ったことは一度もありません...)。しかし、今では練習を通じて体が強くなっているのを感じるだけでなく、日常的に体を動かし続けたいという意欲も高まっています。また、何年も前に母が望んでいたように、姿勢にも気をつけるようになりました。もう一つの重要な変化は、身体的なものと精神的なものの両方です。すべての日本舞踊の訓練は着物を着て行われるので、着物を着ていてもより適切に振る舞えるようになり、不器用な外国人としてすぐに目立つことがなくなったと思います。このことはまた、着物を着た日本女性の伝統的な美的理想をより理解することにもつながり、他では得られない経験となりました。
Q6: What did you find difficult when you were learning the dance “Kurokami (Black Hair)”? 『黒髪』をお稽古して難しかった所は?
A6: 全体の踊りのペースが遅いため、非常に難しく感じます。同じ姿勢を長時間保つために足が早く疲れ、十分にしゃがみ込まずにバランスを崩すことがよくあります。「黒髪」で初めてやる新しい技術もかなりありました。私にとって最も難しいのは「懐手」(ふところ手)で、振り返る一瞬の間に手を完全に着物の袖の中に隠さなければならない技です。腕が奇妙な位置に引っかかることが多く、数か月の練習を経ても成功率はまだ60パーセントにとどまっています。
Q7: What are the charms of “Kurokami” after you have learned the dance? What do you think of the content of the dance? 『黒髪』を踊る上で魅力に思う所は?内容はどうのように感じますか。
A6: 私にとって「黒髪」の魅力は、その複雑さにあります。それは目に見えるものだけでなく、目に見えない「女の心」を伝えようとしているからです。そのために、ゆっくりとした考え深い動きがとても意味を持ちます。踊りをしているとき、多くの場合、キャラクターとして自分の目が向いている方向を見ているのではなく、想像された記憶、つまり、未来のために恋人を他の女性と結婚させたこの女性の過去を見つめていることに気付きました。この踊りは、恋人の不在の夜を過ごす彼女の心を追いかけます。最初は鏡に映る自分の姿を見て、過去の楽しい思い出を思い返すところから始まります。一晩中、彼女の心は恋人への思いと彼を送り出す決意の間で葛藤します。しかし、踊りの終わりに、朝の寺の鐘の音で目を覚まし、外に積もる雪に目を向けます。彼女の心は現在に戻り、葛藤する感情は静かながらも確固たる決意に変わります。この踊りを学ぶ前に、「黒髪」の歌詞を読んだことがあり、それは単に人間の儚い愛情と世の無常についての歌だと思っていました。しかし、踊りはその感情にさらなる多くの心情が重なり、この踊りで最も感動したのは、女性の強さ、彼女の葛藤と複雑さを含めて見せてくれることです。
Q8: Tell us about your experience after having done both regular practices and a recital. お稽古と発表会を経験してどんなことを感じましたか?
A8: 通常のレッスンはマンツーマンなので、先生の全面的な注意を受けられる一方で、日本舞踊の仲間と会う機会はあまりありません。発表会の準備をすることで、パートナーと一緒に踊る練習ができ、リハーサルを通じて仲間と知り合い、お互いに学ぶことができます。
発表会が近づくと、定期的な練習にも追加の目的ができ、まるでレースで目指す目標があるような感覚になります。ステージに立つ前の緊張感は、実際に観客の前で演技をするときには興奮に変わります。出演者と観客のエネルギーが互いに影響し合うライブでのステージの魔法に勝るものはありません。日本舞踊を初めて見たときに感じた力を再び体験できるのですが、今回は自分がステージに立っているのです!
Q9: What are your reasons wanting to continue learning Nihon buyō? 日本舞踊を続けたいと思う理由を教えてください。
A9: 理由はいくつもあります。練習から得られる多くの運動量をありがたく思いますし、日本舞踊の舞台がとても美しいと感じますし、生徒や先生のコミュニティが大好きです。しかし、最も重要なのは、踊りによって語られる物語に惹かれていることです。それぞれの物語が私を異なる時間と空間の全く新しい世界へ連れて行ってくれます。
Q10: What is Nihon buyō to you? あなたにとって日本舞踊とは?
A10: 私にとって、日本舞踊は日本の過去と現在をつなぐ舞台(リンク)です。レパートリーにある多くの踊りは古代の歴史からの物語を語り、私はその踊りを学ぶことでそれらの物語をより深く体験することができます。また、日本舞踊を通じて、プロのダンサーや学生のコミュニティを知り、さまざまな背景を持つ興味深い人々とつながることができます。私たちは皆、日本舞踊への共通の関心によって集まっています。留学生として、日本文化について学ぶのにこのような実践的な体験に勝る方法はありません。
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